自動車業界では、持続可能性と二酸化炭素排出量削減が喫緊の優先事項となっています。多くのメーカーがこの課題に対処するために、各社独自の解決策を見出しています。世界最大規模の多国籍自動車メーカーであるRenaultグループでは、新ブランド「Mobilize」を通じて実践されています。120年の歴史を持つ自動車開発企業が初めて立ち上げた新ブランド「Mobilize」の重要な使命は、カーボンニュートラルなモビリティを提供し、二酸化炭素排出量をゼロにするというグループの目標に貢献することでした。
「これが大きな課題であることは明らかで、決して容易なことではありません。しかし当社は、自動車の持続可能性を高める上で大きな障害となっている二つの重要な問題を認識していました。一つは、人は一日中、運転しているわけではないということです。平均すると90%以上の時間、車両は使用されていません。そして二つ目に、それほど乗っていなくても3年間で価値は50%減失してしまいます。ですから、使用実態と自動車のコストが見合う方法を模索する必要がありました」
Mobilize エンジニアリングディレクター Benoit Abadie氏
Mobilizeが最初に取り組んだ主要プロジェクトは、2人乗りの都市型モビリティ車両「Duo」です。初期設計を完了した同社は、外部の協力を得ることでさらに良いものにしたいと考えました。そこで、オープンプロセスを立ち上げ、イノベーションと業界知識を兼ね備えた独創性をプロジェクトにもたらすことのできるパートナーを選定することにしました。
「当社にはビジョンがあり、プロジェクト全体の方向性について確固たる自信をもっていました。しかし、このプロジェクトは当社にとっても、そして顧客にとっても非常に重要なものでした。ですから、あらゆる手段を尽くして、持続可能性の目標を達成できる都市部のドライバーに最適な、出来うる最高のクルマを開発したかったのです」
エンジニアリングディレクター Benoit Abadie氏
都市型モビリティ設計で、イノベーションを共創
さまざまな選択肢を慎重に検討した結果、Mobilizeは最終的にキャップジェミニ・エンジニアリングとMagna社をプロジェクトパートナーに選びました。2年間の契約に合意した後、3社は協働して「Duo」の設計改良に着手しました。キャプジェミニ・エンジニアリングの専門家は、豊富なイノベーションの実績を活かし、Mobilizeの予算と目標を踏まえて、外部からの視点で車両設計のさまざまな事項に挑みました。
プロジェクトの背景や状況を鑑み、キャップジェミニはグループ化したチームを立ち上げ、これを主導しました。Magna社はシャーシのパーツやモジュールの製品開発/プロセス開発・ボディ・内装を担当。これら製品開発業務に加えて製造エンジニアリング、特にRenaultのタンジール工場での組み立てラインを担いました。
「新車の設計ではいつも、色々な機能を搭載したいという欲求が募ります。あらゆる新機能を搭載した最先端のクルマをつくりたい、と言うのは簡単です。しかし、人々の車の使い方の傾向を踏まえて設計を制限していく作業は、はるかにチャレンジングであり、興味深いことでした」
キャップジェミニ・エンジニアリング、バイスプレジデント 兼 インダストリーリーダー Fabien Premaor
その一例として、プロジェクトチームは、設計でエアコンが装備されていないことを重視しました。「Duo」が都市部のドライバーにとってコスト面で魅力的なものとなるように、エアコンを装備しない設計になっていたのです。重要案件として認識したキャップジェミニ・エンジニアリングの専門家は、車両の総コスト内に収まり、多くの顧客が必要とする主要機能を備えたエアコンの開発に着手しました。
「エアコンを設計に含める方法を見出すだけの問題ではありませんでした。総コストに大幅な変更が生じないように、また追加によって持続可能性に対するMobilizeの目標達成力が決して損なわないようにする必要がありました」
キャップジェミニ・エンジニアリング、プロジェクトディレクターAPA、Ghassen Abichou
「車両にエアコンを装備することは、決して目新しいことではありません。しかし取り組んでいるガイドラインに適応させるという点で、当社の提案は確かに斬新なものでした」
キャップジェミニ・エンジニアリング、ビジネス開発ディレクター Pascal de Ruyck
キャップジェミニ・エンジニアリングのチームは、この要素の設計を完了させ、Mobilizeの関係者ならびに専門家に共有しました。ビジョンの実現に必要なコストと素材の見直しなどについて協調的な議論を行った結果、エアコンは「Duo」の最終設計に追加されました。
車両のさまざまな要素についてこうしたやり取りを重ねることで、Mobilizeとキャップジェミニ・エンジニアリングは全体設計を洗練・強化させていきました。この過程を経て両社は、開発プロセスが設定したターゲットコストから決して逸脱することなく、可能な限り環境保全に配慮した素材が使用されるようにしました。
サステナブルでイノベーティブな新しい超小型車を展開
2年間の提携の成果が”フランスで設計・製造”された2人乗りのシティカーです。2024年10月に公開されました。この新型「Duo」には、40%以上リサイクル素材が使われています。Mobilizeとキャップジェミニ・エンジニアリングは、設計の要件を満たし、適切なタイムラインで開発を進行できるように、協働して素材と手法を確定していきました。
「Duoでは、多くのドライバーの懸念や関心に応えられるように、実に多くのことに取り組んみました。このクルマは、より手頃な価格、都市周辺の走行に適したコンパクトなデザイン、そして持続可能な製造手法とEV化による排出量削減を実現しています。そして私たちは、顧客が当然のこととして期待する性能面に一切妥協することなく、市場における最高レベルの快適さ、操作性、安全性、接続性のすべてを実現しました」
Mobilize チーフエンジニア、François Laurent
「Duo」と「Bento」の展開を通じて、Mobilizeは自動車業界のサステナビリティトランスフォーメーションへの大きな一歩を踏み出しています。自動車が製造と二酸化炭素排出の両面で環境保護に対する責任を果たし、よりドライバーのニーズに合った乗り物になるように、同社はさらなるイノベーションを追求し続けていくことでしょう。