キャップジェミニCEO アイマン・エザットとSAP SE CEO クリスチャン・クライン氏による対談

*本ページは、キャップジェミニのグローバルサイトで公開されている英語版記事: The CEO Cornerを、日本語でご紹介するために翻訳したものです。 

クリスチャン・クライン氏:私にとって、「デジタル主権」は、シンプルな現実から始まります。AI が、エンタープライズソフトウェアや、企業による中核事業の運営方法を作り変えているという現実です。SAP はまさに、その変化の真っ只中にいます。それが当社の自律型エンタープライズ(Autonomous Enterprise)のビジョンの中心となっています。AI が運用タスクを自律的に処理し、人間が最も得意とする、複雑な問題を解決してイノベーションを推進することに集中できるようになるというのが、当社が思い描く未来です。

デジタル主権は、最終的には、世界最高水準の技術との接続を維持しながら、データ、運用、技術、法律の各レイヤーにわたって、選択、統制、ガバナンスを行使できる能力を表します。

孤立でも、グローバルパートナーの除外でもありません。欧州はイノベーションと国際協力に対して開かれた状態を維持しなければなりません。

欧州全体でデジタル主権の共通の定義を設けることは極めて重要です。現状ではそのようになっておらず、この定義の不一致は、公的機関、規制対象の産業、技術プロバイダにとって不確実な状況を生み出しています。それが、クラウド、AI、ミッションクリティカルなデジタルサービスの採用の見送りに直結している状況です。

「デジタル主権は、データ、運用、技術、法律の各レイヤーにわたって、選択、統制、ガバナンスを行使できる能力を表します。」

クリスチャン・クライン氏

主権のあるクラウドのためにEU 全体で単一の調和のとれたアプローチをすれば、分断状態を緩和し、単一市場を強化して、プロバイダがより効率的に規模を拡大できるようになるでしょう。それは最終的に、欧州の企業・組織や市民にとってより良い結果につながります。

アイマン・エザット: 私が考えるデジタル主権とは、ある国または地域が重要なデジタル技術とそれらを規制する法律を習得し、その構造的な選択を第三者によって左右されることなく、デジタル領域において独自に評価、判断、行動できる能力を指します。

「最終的には、デジタル主権は、依存先を選択できる自由、そしてその能力のことを表します。」 

アイマン・エザット 

この概念は、データ主権、運用主権、技術的主権、法的主権という複数の次元にまたがっています。最終的には、依存関係を選択できる自由、そしてその能力のことを指します。大きな企業・組織にとって、その目的は完全な自律ではありません。技術的な依存関係を理解して管理すること、つまり「依存状態」から「レジリエントな相互依存状態」へと移行することです。 

政府や企業が「デジタル主権」という語を用いて異なる事象を説明していれば、議論の論点がぼやけて、微妙な差異が意識されません。そのため、合意を形成して集団で行動することが困難になります。

クリスチャン・クライン氏:CEO とお話しすると、必ずと言っていいほど、いくつかの中核的なリスクに行き着くことになります。過去18 か月で、それらのリスクの緊迫性が増すばかりです。 

1つ目は事業継続性のリスクです。何らかの異常が発生した場合に、インフラストラクチャ自体ではなく、サプライチェーン、物流、財務、公共サービスなどのコアプロセスが晒されることになります。 

2つ目はより大規模な環境のリスクです。地政学的な緊張状態、台頭するサイバー脅威、ますます複雑化する規制が、企業・組織に多大なプレッシャーを与えています。高いセキュリティ、法令遵守、信頼の維持が、あらゆる企業にとっての最優先課題です。そのため、現在はデジタル依存関係が戦略的な脆弱性に直結するようになりました。 

「デジタル主権は、技術的なトピックから、欧州の経済安全保障の中核課題へと移り変わってきました。」 

クリスチャン・クライン氏 

AI が重要な意思決定に加わるようになって、各界のリーダーからは新たな疑問が投げかけられています。誰がデータを統制するのか。誰がモデルを統治するのか。そしてAI システムによる意思決定には、どれほどの透明性と説明責任が備わっているか、といった疑問です。 

そういった理由で、デジタル主権は、技術的なトピックから、欧州の経済安全保障の中心的課題へと移り変わってきました。そしてSAP は、不安定な環境において、企業・組織がまさにそのような複雑性を管理できるよう支援しています。 

アイマン・エザット: 欧州のCEO がデジタル主権について取り上げるとき、その根底には、欧州域外の技術に対する致命的な依存を減らしたいという目的があります。彼らが軽減したいリスクは明白です。それは、海外の単一のクラウドプロバイダやソフトウェアプロバイダへの依存、域外の法律による露出(たとえば、外国当局が機密データへのアクセス権を得ること)、そして重要なデジタルサプライチェーン全体に及ぶサイバーセキュリティの脆弱性のリスクです。究極的には、海外で所有されるプラットフォームに大きく依存することにより、データや業務に対する統制が損なわれるのではないか、あるいは、自社の影響力が及ばない外部の意思決定による影響にそれらがさらされるのではないかという懸念を抱いています。 

AIMAN EZZAT

「主権と俊敏性およびイノベーションとのバランスを図ることが、中核課題になります。」 

アイマン・エザット 

この議論は現在変わりつつあります。かつて特定のドメイン(データ、クラウドなど)の自律性に重点が置かれていた分野において、現在は頻繁に、「競争力を失わずにデジタル主権を強化できるか?」と質問されるようになりました。CEO は、致命的な依存関係を減らして事業を保護しながら、クラス最高の技術にアクセスして世界で競争することができるという保証が欲しいのです。言い換えれば、主権と俊敏性およびイノベーションとのバランスを図ることが、中核課題になります。 

クリスチャン・クライン氏:デジタル主権について言えば、エンタープライズソフトウェアレイヤーは極めて重要です。このレイヤーは、あらゆるものが現実になるところだからです。AI エージェントは一見すると非常に優れているように見えますが、実際の産業やプロセスの知識、実際のデータ、実際のビジネスコンテキストが存在しなければ、AI エージェントは単なるデモに過ぎません。どのような基盤モデルも、それらを自ら創出できません。それをしているのはSAP です。 

真のデジタル主権には、インフラストラクチャ、プラットフォーム、アプリケーション、AI というスタック全体にわたる統制が必要になります。そして、エンタープライズソフトウェアレイヤーに、それらの要素がまとまっています。このレイヤーで、ビジネスプロセスが実行され、データが構造化され、意思決定が行われます。 

そのため、エンタープライズソフトウェアは、単なるスタックを占める一部分ではありません。インフラストラクチャ、データ、AI を、信頼できるエンドツーエンドシステム内で結び付けるレイヤーです。企業・組織にとっては、主権を現実化し、実用化するものなのです。 

エンタープライズソフトウェアは、最終的には、自律型エンタープライズを可能にするものです。自律型エンタープライズにおいては、AI は単なるアドオンではなく、エンドツーエンドのビジネスプロセスに組み込まれ、意思決定を推進し、リアルタイムで適応し、明確に統治された主権フレームワーク内で稼働します。 

アイマン・エザット: エンタープライズソフトウェアレイヤーは過小評価されやすいですね。クラウドインフラストラクチャや半導体チップは絶対不可欠ですが、ソフトウェアはデジタルバリューチェーン全体の結合組織であり、データ、プロセス、意思決定をエンドツーエンドで結び付けています。 

「エンタープライズソフトウェアレイヤーは、主権において、クラウドや半導体と同じく戦略的に扱うべき要素です。」 

アイマン・エザット 

そのため、このレイヤーを強化することが、主権を求める上での優先事項になります。オープンソースは、透明性や柔軟性をもたらすことは可能ですが、主権とセキュリティのいずれに対しても特効薬にはなりません。重要なのは、特に中核的なビジネス機能とデータ管理に対して、ソフトウェアの選択によって統制を維持することです。この統制とは、切り替え、監査、運用の能力です。欧州において、それは相互運用性と移植性を推進してロックインを回避することを表します。また、重要なソフトウェアを主権のある環境で実行できるようにすること(たとえば、セキュリティ検証を済ませ、欧州域内にホストし、ローカルで統制される暗号鍵を使用すること)を表します。まとめると、エンタープライズソフトウェアレイヤーは、主権において、クラウドや半導体と同じく戦略的に扱うべき要素です。 


クリスチャン・クライン氏:はい、欧州デジタル主権は実現可能です。ただし、そのためには主権を実用的な方法で定義する必要があります。欧州デジタル主権は、欧州域内に隔離することでも、あらゆるものを欧州内で構築する必要があると主張することでもありません。私の見解としては、それは欧州の統制権、監視権、決定権の下で行動できること、および重要なデータを統治できることを表します。

「世界最高水準の技術を欧州で使用できる状況を維持しながら、データが域内で維持され、欧州の管轄下で管理され、欧州の各種規制に完全に準拠するよう保証することは可能です。」 

クリスチャン・クライン氏 

世界最高水準の技術を欧州で使用できる状況を維持しながら、データが域内で維持され、欧州の管轄下で管理され、欧州の各種規制に完全に準拠するよう保証することは可能です。つまり、ここでの目標は完全な自給自足ではありません。欧州が自らのデジタルの未来を統治する権力を確実に持てるようにすることです。 

アイマン・エザット:私は総合的なエンドツーエンドのデジタル主権、つまり欧州による技術スタックの全レイヤーの完全所有は、現実的でなく、望ましくもないと考えています。スタックのすべてのコンポーネントを統制できる国や地域はありません。最大規模のプレーヤーでも、国際的な協力関係やグローバルサプライチェーンに依存しています。絶対的な自給自足を追求することは実用的ではなく、別の地域で起こるイノベーションから欧州が孤立することにもなりえます。欧州は、有意義な主権を実現するためにすべてのレイヤーを所有する必要はありませんが、重要なレイヤーへの保証されたアクセス権、そして統制権は確実に必要としています。 

現実的かつ望ましいのは「戦略的自律性」、つまり欧州の利益を保護するために、依存関係を選択して管理できることです。そのためには、デジタルバリューチェーンのどの部分が本当に重要なのかを特定して、完全に独立するのではなく、レジリエントな相互依存となるよう設計する必要があります。実際面では、中核的なドメインでの欧州の能力を強化すること、戦略的パートナーシップ(欧州域内、欧米間の両方)を構築すること、堅牢な緊急時対応計画を用意することが必要になります。これらの対策によって総合的に、危機の際にも自律性と継続性を維持できます。そのようなバランスの取れたアプローチを、私は「実用主義的主権(Pragmatic Sovereignty)」と呼んでいます。 

「私は総合的なエンドツーエンのデジタル主権、つまり欧州による技術スタックの全レイヤーの完全所有は、現実的でなく、望ましくもないと考えています。」 
アイマン・エザット 

クリスチャン・クライン氏:コンソーシアムのアプローチは極めて効果的に機能できると考えています。ただしそれは、1 つの欧州として活動する場合に限られます。単独のプレーヤーが主権の問題を解決することを期待するのではなく、欧州の主要企業をまとめる必要があります。 

それこそが、まさにキャップジェミニとのSovereign Technology Partnership の拡大の目指すところです。この取り組みでは、Mistral AI やBleu など、欧州の他の主要企業と共に、クラウドとエージェントをベースとしたAI ソリューションの展開を加速させています。防衛や公共部門などの特に規制の厳しい分野を含めた、欧州の最も重要な分野を対象としています。

しかし同時に、現状について率直に分析しなければなりません。欧州ではいまだに、スタートアップの起業や規模拡大が、あまりにも困難で時間がかかる状況です。官僚制と分断が欧州の前進を妨げています。官民一体となることができれば、エコシステム全体が同じ方向に向かうことで、いかに物事が早く進むかが分かるでしょう。 

「欧州の主権は、最終的には、相互に結び付いた強力なエコシステムから生まれることになるでしょう。そのエコシステムは、イノベーションと信頼の両方を備え、この単一の市場全体に拡大できるものになります。」 

クリスチャン・クライン氏 

欧州の主権は、最終的には、相互に結び付いた強力なエコシステムから生まれることになるでしょう。そのエコシステムは、イノベーションと信頼の両方を備え、この単一の市場全体に拡大できるものになります。欧州はこれまでにも、勝利を掴めることを示してきました。ここには優れた人材が居て、データがあり、お客様もいらっしゃいます。足りないのは能力ではなく、スピードです。さまざまな方面において、「欧州にはエンジンがある。必要なのは、ブレーキを外すことだけだ」という単純なメッセージが当てはまります。 

アイマン・エザット:欧州では現在、コンソーシアムをベースとした、さまざまな有益なアプローチが取られており、産業界と政府が協力して、共有の「主権」ソリューションを構築するためのパートナーシップが構築されています。これらのモデルは、防衛や重要インフラなどのドメインでは特に効果的に機能する可能性があります。たとえば、キャップジェミニはフランス内務省向けに、Airbus と共同で「Réseau Radio du Futur(次世代無線ネットワーク)」コンソーシアムを主導しています。また、戦略的プログラム(衛星通信による5G など)について、Thalesなどの他の企業とも提携しています。これらの取り組み全体によって、欧州の専門知識とリソースが蓄積されています。同時に、変化の速い技術ドメインにおいては、欧州の企業・組織には、迅速かつ大規模にイノベーションを起こし、かつ必要に応じて個々にすばやく動くことのできる自由と支援も求められます。

私の見解としては、いずれか一方を選択するということではなく、両方のアプローチが必要です。欧州は、単独ではどのプレーヤーも成功できない分野や、規格の設定と相互運用性が極めて重要になる分野では、コンソーシアムモデルを活用すべきです。それと並行して、欧州は先駆的なテクノロジー企業やスタートアップが世界有数の企業へと規模を拡大できるように、育成し投資する必要があります。公的調達における「欧州企業優先」といった施策が効果を出すためには、相当な規模の域内市場を形成し、同時に、それを支える政策、イノベーションへの資金提供、さらに場合によっては、国境を越えた合併や提携による規模の構築を行うことが必要になります。まとめると、より強くなれるところでは協力し、迅速に対応すべきところでは個々に行動するという組み合わせで、欧州の主権を構築する必要があります。 


クリスチャン・クライン氏:まず、欧州全体での「主権のあるクラウド」について、統一された定義が必要だと切実に思っています。27か国分ではなく、1つの標準が欲しいのです。フランスはすでに、 SecNumCloud によって一歩先を行っていますが、明確な汎欧州アプローチがあれば、誰にとってもはるかに効率的です。 

2つ目に、競争力を得たければ、簡易化が必要になります。規制を増やすのではなく、良質化するということです。企業・組織が、開発・提供をより迅速に進められるようにする必要があります。欧州は躊躇なくデプロイメントを推進する、真に単一のデジタル市場を求めています。 

規制では、技術的な詳細を規定するのではなく、レジリエンス、継続性、競争力といった、誰もが関心を持つ「結果」に重点を置くべきです。 

アイマン・エザット:規制要件はリスクベースであり、均整が取れており、技術的な進歩に歩調を合わせられるものである必要があります。イノベーションを加速させ、市場への参入障壁を引き下げるには、EU 全域の規制サンドボックスを拡大して、現場での実験を可能にすることが不可欠です。ここ数年で、欧州は独特な規制アプローチを開拓してきました。それは、市民の保護と競争力の間にある適正なバランスを見つけなければならないというものです。過剰な規制は、特にAI などの新興技術に対しては、採用の遅れにつながり、欧州の競争力を低下させる恐れがあります。主権は、イノベーションを可能にする、将来を見据えた統一的で安定したフレームワークに基づいたものであるべきです。

「規制要件はリスクベースであり、均整が取れており、技術的な進歩に歩調を合わせられるものである必要があります。」 

アイマン・エザット 

「規制では、技術的な詳細を規定するのではなく、レジリエンス、継続性、競争力といった、誰もが関心を持つ「結果」に重点を置くべき です。」 

クリスチャン・クライン氏

クリスチャン・クライン氏:私からのアドバイスとしては、イデオロギーではなく、リスクとビジネスへの影響に基づいて主権を定義してください。データガバナンス、業務の監視、継続性といった基本的な事柄に重点を置きましょう。世界最高水準のイノベーションを活用しながらも、欧州の法律と規制のフレームワークの下で、統制、可監査性、法令遵守を維持できるようにしてください。最後に、ブレーキを外しましょう。データを標準化し、AI を自社の中核的なワークフローに直接組み込み、本当のガバナンスと統制をもたらすプラットフォームを基盤にしてください。 

「私からのアドバイスとしては、イデオロギーではなく、リスクとビジネスへの影響に基づいて主権を定義してください。」

クリスチャン・クライン氏 

アイマン・エザット:主権に対して実用主義的な、ビジネスに焦点を当てたアプローチを採用してください。まず、自社のデジタルにおける重大な依存関係とリスクをマッピングすることから始めましょう。技術的に統制されていないか、あるいは海外からの過度な影響を受けていることで、自社のビジネスに大きな影響を及ぼしている部分を特定し、本当の意味でミッションクリティカルなものに重点を置くようにしてください。その上で、効率やイノベーションを損なわずにそれらのリスクを緩和するための主権計画を策定してください。たとえば、最も機密性の高いデータを欧州のクラウドインフラストラクチャに配置し、強力な暗号化と域内の法的な監視によって保護することができるかもしれません。あるいは、単一のプロバイダに束縛されないようにマルチクラウド戦略を採用できるかもしれません。 

自律性を保護しながら、イノベーションと競争力を支援することもできるソリューションを選択しましょう。そのためには、特定のワークロードに対して「主権のあるクラウド」を使用すること、目的に合ったところではオープンソースを採用すること、データレジデンシーと監査権を保証するような契約を交渉することなどが考えられます。そのどれであっても、主権を得るための方策が自社のビジネス目標に沿ったものになるようにしてください。まとめると、自社の依存関係について明確に見極め、現実的な方策によって対処し、世界の技術を活用し続けるようにしましょう。 

「主権に対して実用主義的な、ビジネスに焦点を当てたアプローチを採用してください。」 

アイマン・エザット 

クリスチャン・クライン氏:ええ、まさにそのとおりです。デジタル主権は、セキュリティ、レジリエンス、成長の基盤になってきました。新たな技術を採用しスケーリングするために必要となる、信頼できる環境を作り出しています。 

たとえば、「主権AI」により、創薬、産業オートメーションなど、高品質のデータと深い専門知識が求められる複数の産業において、イノベーションが解き放たれています。大企業や産業のデータに有意義な形でセキュアにアクセスして活用できることにより、競争優位が得られるケースが増えてきています。 

「デジタル主権は、セキュリティ、レジリエンス、成長の基盤になってきました。新たな技術を採用しスケーリングするために必要となる、信頼できる環境を作り出しています」 

クリスチャン・クライン氏 

そして、欧州はこの点において突出できる可能性があります。特に規制の厳しいミッションクリティカル環境においては、統治された、説明責任のある、信頼できるAI が発展していきます。そのようにすれば、欧州は産業競争に打ち勝てます。表層的なツールでも、スタンドアロンのエージェントでもなく、統治されたエンドツーエンドのビジネスプロセスにAIを組み込んだプラットフォームが勝者となるでしょう。 

アイマン・エザット:ええ。正しくアプローチすれば、デジタル主権によってイノベーションと競争力を推進できるのは間違いありません。重要なのは、主権を制約としてではなく、真の能力を構築するためのフレームワークとして扱うことです。戦略的な自律性と、クラス最高の技術へのアクセスとのバランスが取れれば、主権はレジリエンスと競争上の差別化の源になります。それによって企業は、より優れたセキュリティ、透明性、統制を備えたシステムを設計して、最終的にはより良い製品を提供できるようになります。 

さらに、「主権のある技術力」に投資することにより、欧州発のイノベーションを促進することができます。チームが、プライバシー、セキュリティ、法令遵守という戦略的に必要とされるものに集中すれば、それ自体が価値提案となる創造的なソリューションを自力で作成できるということがよくあります。主権は、適切に導入できれば、法令遵守のためだけではなく、イノベーションの触媒にもなります。Bleu がその一例です。高度なクラウド機能と、フランスの法律に基づく最高レベルのデータ保護を組み合わせて、明確な市場ニーズを満たす新しいものを構築しています。主権によりその需要が生まれ、イノベーションによりその需要が満たされたのです。 


クリスチャン・クライン氏:AI 分野では欧州は後れを取っているという話を聞いたときは、私は必ず「何に後れを取っているのですか?」と問い掛けています。次世代のチャットボットに関する競争であれば、そう言えるかもしれません。しかし、欧州にとって真のビジネスチャンスは産業AI であり、それについてはSAP が今後大きな役割を果たしていきます。SAP には、世界最高品質のビジネスデータがあり、業界に関する深い専門知識もあります。 

一方で、欧州は世界最高水準の技術を活用できる必要がありますが、それには欧州のガバナンスとルールに従って運用できる方式が求められます。そのバランスこそが大切です。

だからこそ、SAP とMistral AI のようなパートナーシップが極めて重要になります。パートナーシップによって、欧州の条件、すなわち欧州のセキュリティ、法令遵守、主権に従った世界クラスのAI がもたらされます。 

アイマン・エザット:欧州AI モデルは主権の中心をなすものです。最先端のモデルの大部分が欧州域外のものであると、欧州の企業や政府は、意思決定や日常業務での重要性が高まっている機能に、構造的に依存することになります。 

エージェント型AI によって、この課題はかなり深刻化します。自律型エージェントが意思決定を行い他のシステムのオーケストレーションを担当することになると、問題は「データがどこにあるか」にとどまらず、「誰がこの意思決定ループを統制しているのか」にまで発展します。欧州は、現実の戦略的自律性を確保するための統制フレームワークを提供できるプレーヤーを必要としています。OpenAI、Anthropic、あるいはGoogle を無視してそれを成し遂げることはできず、それらの技術をMistral AI などの欧州の主要企業と同時に活用することになります。当社はMistral AI との戦略的パートナーシップをSAPとともに拡大しましたが、それはこのアプローチを表しています。すなわち、厳格なデータ要件が求められる規制の厳しい部門(金融サービス、公共部門、航空宇宙・防衛、エネルギーなど)に対して、セキュリティとスケーラビリティに優れたAI システムを提供しようとしています。欧州AI モデルにより、欧州のガバナンス下でデータとアルゴリズムを維持しながらのイノベーションが可能になります。欧州AI モデルは、デジタル主権のある欧州の重要な要素となります。