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Innovation

Dr. Walter Sun氏との対談

AIエージェントでビジネス価値を創出

Dr. Walter Sun氏は、SAPのシニアバイスプレジデント兼グローバルAI責任者です。

Dr. Walter Sun氏は、SAPにおいてAI製品の開発およびSAPアプリケーション全体での再利用を推進するAI戦略の統括組織をリードしています。SAP入社以前は、Microsoftにて「業務アプリケーション向けCopilot AI」のバイスプレジデントを務めていました。それ以前には、BlackRock Financial Managementでクオンツ・ポートフォリオ・アナリストとして投資分析に従事し、さらにAppleでは、シニアソフトウェアエンジニア兼サイエンティストとして技術開発に携わっていました。


AIを安全かつ効果的に活用するために、SAPは「3つのR(3Rs)」フレームワークを取り入れています。:

  1. Relevant(関連性)ーAIはビジネスニーズに応じて調整されるべきです。SAPのAIモデルは、業種ごとの特性や要件を的確に捉え、それに基づいて設計されています。例えば、米国のサプライチェーン企業と英国の同業他社では求められる業務要件が異なるため、それぞれに最適化されたAIを提供します。
  2. Reliable(信頼性)ーAIは正確で事実に基づいた出力を提供する必要があります。
  3. Responsible(責任)ーAIの意思決定の背後にあるロジックをユーザーが理解できるよう、透明性を重視しています。

「AIは倫理的で、説明可能であり、規制に準拠していなければならない」

SAPにおけるAI統合の3つの柱:

  • ネイティブAI統合:SAPのアプリケーションにAIを直接組み込むことで、たとえばHR管理システムのSuccessFactorsでは、自然言語での入力から求人票を自動生成することが可能になります。
  • Joule(SAPのAIコパイロット):JouleはSAPのデジタルアシスタントで、ユーザーがSAPアプリケーション間でシームレスにタスクを実行できるよう支援します。
  • Business Technology Platform(BTP)上のAI基盤:SAPの生成AIハブでは、30以上の大規模言語モデル(LLM)にアクセス可能。企業はこれを活用して、独自のAIアプリケーションを構築・カスタマイズできます。applications.

「グラウンディング技術1」と「出所確認(プロヴェナンスチェック)」を活用することで、AIが生成する情報の正確性を検証し、誤情報の発生を最小限に抑え、精度を最大化しています」


JouleーSAPのAIコパイロットーはどのように機能するのか?

Jouleは、SAPが提供するAIコパイロットであり、ビジネスアプリケーション全体にわたって自然言語での対話を可能にするよう設計されています。Jouleは、ユーザーとさまざまなAIエージェントの橋渡し役を担い、タスクを効率的にオーケストレーション(調整・実行)します。

たとえば、ユーザーが出張のスケジュールを立てたい場合、Jouleは一連のアクションを自ら推論しながらタスクをオーケストレーション(調整・実行)することができます。

  1. ユーザー自身のカレンダーと、CRM(顧客関係管理)と連携して取得した顧客のカレンダーを照合し、関係者全員の都合が合う日程を特定します。
  2. SAPのConcurトラベルエージェントと連携し、条件に合ったフライトとホテルを予約します。
  3. 関係者に通知を送り、予定されたミーティングをCRMに記録します。

Jouleは、SAPエコシステムに深く統合されている点で、他のAIエージェントとは一線を画しています。財務、サプライチェーン、人事、顧客対応など、複数のSAPアプリケーションを横断的に連携できるため、統合されたAI主導の業務体験を実現します。単体で動作するAIエージェントとは異なり、Jouleは企業内のさまざまな機能をつなぎ、部門をまたいだ業務プロセスの効率化を実現します。さらに、Joule Studioを活用することで、SAPの枠を超えた拡張性も確保されており、外部システムとの連携も可能です。


企業がAIやAIエージェントを導入する主な理由とは?

企業がAIを導入する主な動機は、効率を高め、価値を創出することにあります。組織は、より短時間で多くの成果を上げ、意思決定を強化し、繰り返しの作業を自動化したいと考えています。AI技術、特にAIエージェントは、こうした目標の達成を支援する強力なツールです。

もう一つの重要な要因は、顧客のニーズと期待です。エンドユーザーや企業クライアントは、シームレスでインテリジェントなやり取りを求めています。AIは、カスタマーサービスの向上、ユーザー体験のパーソナライズ、そして全体的な業務効率の改善に貢献します。

歴史的に見ても、すべての大きな技術革新は、勝者と後れを取る者を生み出してきました。パソコンの利点を早期に認識した企業は、タイプライターに固執した企業よりも優位に立ちました。同様に、インターネットが登場したとき、オンライン接続を受け入れた企業は、そうでない企業よりも効率的になりました。

AIもまた、新たなパラダイムシフトです。企業は、競争力を維持するためにAIを業務に統合する必要があると認識しています。彼らは、セキュリティやプライバシーに関するリスクを最小限に抑えながら、AIの可能性を探求したいと考えています。

「AIの導入は単なる自動化ではなく、競争力を維持するための手段である」


AI導入における主な課題とは?

多くの企業がAIの可能性に期待を寄せていますが、まだ導入初期段階にあり、慎重に進めています。最大の懸念の一つは、セキュリティとプライバシーに関することです。企業はAIの力を活用したいと考えていますが、同時に自社のデータを守ることも重視しています。AIモデルがどのように意思決定を行っているのかについての透明性も求められており、これはシステムへの信頼を築く鍵となります。信頼が大きな障壁となっています。AIにある程度の自律性を与えるには、まず企業がそのシステムを信頼できるようになる必要があります。AIが一貫して信頼できる結果を出すことで、企業は徐々により多くの業務を自動化し、リスクや金額が一定以下のタスクについてはAIに自動実行を許可するようになるかもしれません。

データ品質もまた、別の課題となっています。AIモデルは高品質で構造化されたデータに依存しています。データの質が低ければ、AIの出力も不正確になります。AIの効果を最大化するには、データ管理とガバナンスへの投資が不可欠です。

AIモデルにおけるデータの偏りも大きな懸念事項です。AIは過去のデータをもとに学習しますが、そのデータには偏りが含まれている可能性があります。企業は、トレーニングデータの厳選と偏りを軽減する技術の導入を通じて、公平かつ正確な意思決定の実現を目指す必要があります。

「信頼を築く方法の一つに、「提案型AI導入」というアプローチがあります。この方法では、AIは提案や推奨を行いますが、最終的な意思決定は常に人間が行う仕組みとなっています」


企業はどのようにAIの意思決定に適応していくのか?

AIの自律性の導入は、過去の技術革新と同じようなパターンをたどるでしょう。たとえば、eコマースが登場した当初、多くの人はクレジットカード情報をオンラインで入力することに抵抗がありました。しかし、安全で信頼できる技術が普及するにつれて、オンラインショッピングは当たり前のものとなり、今ではほとんどの人がデジタル取引をためらうことなく行っています。

同様に、現在の企業はAIを厳しく監視しながら活用しています。

たとえば、AIによる旅行プランニングシステムは、すでに旅程の提案、フライトの予約、ホテルの手配などを行っています。最初はユーザーがすべての詳細を確認してから確定していたかもしれませんが、やがてAIに自動的に予約を任せるようになるでしょう。たとえば、以前は乗り継ぎ時間が十分かどうかを確認していたのに、今ではAIが最適な時間を理解していると信頼して任せるようになってきています。これは、業界全体でAI導入が進む自然な流れです。

「技術が信頼性を証明するにつれて、企業はAIの役割を低リスクの自動化から、より戦略的な意思決定へと徐々に拡大していくでしょう」


AIエージェントの自律性はどこまで許容されるべきか?特に医療や航空宇宙などの重要分野において。

AIの自律性は一律ではなく、信頼の構築に応じて段階的に拡大していくべきです。たとえば経費精算におけるAIでは、「100ドル以下の申請は自動承認、1万ドル以上はマネージャーの承認が必要」といったしきい値を設定することで、信頼性と監視のバランスを保つことができます。このような体系的なアプローチは、AIの支援的な価値を最大化するうえで有効です。

カスタマーサービスの領域でも、同様の原則が適用できます。AIエージェントが標準的な問い合わせに対応し、複雑なケースは人間のオペレーターに引き継ぐといった役割分担によって、効率と品質の両立が可能になります。財務のケースでは、AIが請求書の検証やデータ照合といったルーチン業務を担い、大口取引などリスクの高い判断については人間による承認を求めるといった運用が適切でしょう。

しかし、医療、航空宇宙、産業生産といった重要な分野においては、AIによる完全な自律化に移行することは推奨されません。
これらの分野では、厳格な検証と説明責任が求められるためです。 AIは、大量のデータを分析し、異常を検知したり、対応策を提案したりする形で支援できますが、リスクの高い意思決定は常に人間の専門家が行うべきです。
今後、AIモデルがより高度かつ信頼性の高いものになるにつれて、AIによる自動化と人間による監督のバランスは、さらに進化していくことになるでしょう。


マルチエージェントAIシステムはどのように機能し、ビジネスプロセスをどう変革するのか?

マルチエージェントAIシステムとは、複数のAIエージェントが連携し、複雑な業務フローを協力して実行する仕組みです。たとえば「配送不備に関するクレーム対応」では、従来は財務・サプライチェーン・カスタマーサービスなど複数部門が関与し、人間同士のやり取りに時間がかかっていました。

これがAIによって以下のように効率化されます:

  1. 会話型AIエージェントが顧客と対話し、クレームを記録
  2. サプライチェーンAIが配送記録を取得し、出荷状況を確認
  3. 財務AIが請求書を照合し、返金の可否を判断
  4. CRM AIが社内ポリシーに基づいて解決案のメールを作成

これまで数日〜数週間かかっていた対応が、数分で完了するようになります。最終的な承認は人間の監督者が行うことで、効率と顧客満足度の両立が実現します。

「AIエージェント同士が連携し、必要なデータを収集して、顧客に対して総合的な解決策を提示します」


現状企業におけるマルチエージェントAI導入はどのレベルか?

SAPでは、アーリーアダプタープログラムを通じて、クライアントと協力しながらマルチエージェントAIソリューションを業務フローに統合しています。

一部の企業では、AI主導の調達システムを試験運用しており、異なるAIエージェントがサプライヤーとの交渉、契約の検証、購買承認をそれぞれ担当しています。また、人事分野では、候補者のスクリーニング、面接日程の調整、入社手続きなどを自動化するAIシステムを導入し始めています。これらの取り組みの目的は、本格的な自動化に移行する前に、AIへの信頼を構築することです。

今後、企業がAIによる自動化の経験を積むにつれて、金融、サプライチェーン管理、カスタマーサポートなどの分野で、マルチエージェントAIシステムの導入がさらに広がると予想されます。

「多くの企業は、本格導入に先立ち、マルチエージェントAIを限定的な環境で試験運用しています」


AIエージェント導入に必要な投資額は?

AIエージェントの導入にかかる投資額は、企業の規模や既存のITインフラによって異なります。特定のAI要件のある大企業は、専任のデータサイエンスチームを雇い、カスタムAIソリューションを開発するケースが多いです。一方で、中堅企業や標準的な業務ニーズを持つ大企業の場合、SAPのJoule AIのようなSaaS型AIプラットフォームを活用し、迅速な導入を図る傾向があります。

ほとんどの企業において、AI導入に必要な投資は以下のような項目を含みます:

  • AIソフトウェアやプラットフォームのサブスクリプション費用
  • 既存の業務システムとの統合コスト
  • AIを活用した業務フローに対応するための従業員トレーニング

ROIはユースケースによって異なりますが、大量処理が発生する業務(例:クレーム処理、財務照合など)にAIを導入した企業では、短期間で効果が現れることが多いです。たとえば、AIによる自動化によってカスタマーサービスの対応能力が2倍になり、追加の人員を必要としなかった場合、効率向上による利益が初期投資をすぐに上回ることになります。

特に、AIによる自動化が生産性やサービス品質の明確な向上につながる場合には、その効果はより顕著です。

「多くの場合、企業は数か月以内にAI投資を回収しています」


企業はAIの環境負荷をどう軽減できるか?

AI導入において、持続可能性は重要な観点です。SAPでは、企業が自社のカーボンフットプリント(温室効果ガス排出量)を可視化し、是正措置を講じるための「Sustainability Control Tower(サステナビリティ・コントロールタワー)」を提供しています。AIは、エネルギー消費データを分析することで、夜間に照明がつけっぱなしのオフィス、過剰な空調使用のような非効率な運用を特定できます。これにより、経営層が具体的な改善アクションを取るためのインサイトを提供します。

さらに、SAPの「Generative AI Hub」では、複数の大規模言語モデル(LLM)を抽象化レイヤーで管理し、コストとエネルギー消費を最適化しています。すべてのタスクに最も高性能なモデル(例:GPT-4)を使う必要はありません。たとえば、簡単な顧客対応には軽量なAIモデルを使うことで、パフォーマンスを維持しつつ、コストとエネルギーを削減できます。

「タスクごとに最適なモデルを選ぶことで、企業はエネルギー消費を同時に削減できます」


AIエージェントと人間のチームは、今後どのように連携していくと見ているのか?

AI技術が進化するにつれて、AIエージェントと人間が協力するハイブリッドチームが一般的になると考えられます。AIエージェントは、反復的で実行しやすい業務を担当し、人間は、戦略的な意思決定や創造的な判断に集中できるようになります。これはまるで、AIがシニア社員を支える見習いやアシスタントのように振る舞うイメージです。将来的には、AIアシスタントが日常業務に深く組み込まれ、スケジュールの調整、レポートの下書き、業務プロセスの最適化などを担うようになるでしょう。

「AIの目的は人に取って代わるものではなく、人間の可能性を広げることにあります」


NVIDIAのCEO Jensen Huang氏の発言のように、IT部門がAIエージェントの人事部門になるのか?

AIエージェントがビジネスオペレーションにおいて重要な役割を担うようになる中で、IT部門や人事部門(HR)が消えるわけではありません。むしろ、ITチームはAIを活用した業務の流れを管理する役割へと変わり、AIモデルがちゃんとシステムに組み込まれ、会社のニーズに合うように調整していくことになります。

これをわかりやすく言うと、昔の図書館員の役割の変化に似ています。検索エンジンが登場する以前、図書館員は人々が情報を手作業で探すのを助けていました。インターネットの普及に伴い、彼らの役割は利用者にオンラインリソースの効果的な活用方法を教えることへと変わりました。
同様に、ITや人事の専門家もAI主導のプロセスを管理するためのスキルを向上させ、利用可能なAIを活用して、AIが効果的かつ倫理的に使われるようにするなど、より多くの役割を担うようになるでしょう。

「HR部門は、社員にAIの使い方を理解させると同時に、AIの活用を安全かつ適切に導くための専任の役割を新たに設ける必要が出てくるでしょう」


今後3〜5年でAIエージェントはどう進化するのか?

これまでのAIモデルは、広範なデータセットで訓練されており、汎用的なアシスタントとして機能していました。現在は、金融、サプライチェーン、医療など、特定の業界に特化したAIモデルへと進化しています。これにより、より専門的で実用的な支援が可能になっています。

今後は、個人の好みや業務スタイルを理解するAIエージェントが登場するでしょう。たとえば、出張時に好みの航空会社を自動で選択してくれたり、メールを緊急度に応じて優先順位付けする、朝の会議前に世界の市場動向を要約してくれるようになるでしょう。このような高度なパーソナライズにより、AIは生産性を飛躍的に高め、業務に欠かせない存在となるでしょう。

「AIエージェントは、ますますパーソナライズされていく」

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  1. グラウンディング技術:モデルの出力を検証可能な情報源に結びつける手法 ↩︎