2025年、世界経済は企業収益の底堅さに支えられ、さらにAI領域への積極的な投資が株式市場全体の成長をけん引しました。その結果、富裕層(HNWI)の資産と人口は過去5年間で最も大きな伸びを記録し、世界のHNWI資産は、2025年末時点で前年比8.7%増の98.3兆米ドルに拡大しました。日本においても、資産は12.3%増加し、富裕層人口も10.9%の伸びを記録しています。 

力強い市場動向を背景に、HNWIはポートフォリオを上場市場へとシフトさせました。日本では、株式市場の好調なパフォーマンスを受け、株式比率は5ポイント上昇し27%に拡大しました。一方、債券市場の安定化を背景に、債券配分も4ポイント増の20%となり、リスク調整後ポートフォリオにおける重要性が改めて高まっています。 

しかし、この力強い成長の裏側で、APAC地域のウェルスマネジメント業界は顧客体験において大きな課題に直面しています。「シームレスでパーソナライズされたアドバイスを受けている」と実感しているHNWIはわずか23%にとどまっています。これは、ニーズ不足ではな「提供の在り方」に起因しています。 

実際、95%の金融機関が依然として資産規模を中心としたセグメンテーションを行い、89%が従来型のリスクプロファイルに依存しているため、十分なパーソナライゼーションが実現できていません。このアプローチでは、個々の顧客の価値観やライフゴールに寄り添った提案が難しくなっています。その結果、より柔軟で高度なサービスを提供するファミリーオフィスやWealthTech企業が急速に存在感を高めています。 

競争環境はすでに大きく変化しており、既存プレイヤーの顧客の関心(マインドシェア)と資産配分(ウォレットシェア)の双方に直接的な影響を及ぼしています。2022年から2025年にかけて、世界でおよそ1.5兆米ドルもの新規資産が従来型プレイヤーではなく競合へと流入しました。今、求められているのは抜本的な変革です。顧客一人ひとりに最適化されたパーソナライゼーションを実現するために、金融機関はオペレーティングモデルを再構築し、新たな価値提供へと踏み出す必要があります。

APACにおける顧客体験向上に向けたオペレーティングモデル変革 

パーソナライゼーションの実現には、小規模な改善の積み重ねでは不十分です。オペレーティングモデル変革に向けて、以下の3つの相互に関連する柱が重要となります。 

1. 商品・サービスラインアップの拡大 
APACのHNWIの86%は、より良いオルタナティブ投資を求めて複数の金融機関を使い分けており、マインドシェアの分散が進んでいます。投資商品がコモディティ化しつつある中で、税務、資産承継(エステートプランニング)、リタイアメントいった付加価値サービスこそが、投資運用を超えた関係性の深化につながり、顧客維持を左右する重要な差別化要因となっています。 

2. リレーションシップ・マネージャーの強化 
リレーションシップ・マネージャー(RM)は、税務、資産承継、融資、フィランソロピーなど、さまざまな専門領域のプロフェッショナルを連携させながら、複雑化する顧客ニーズに対応する役割を担っています。しかし現状では、業務時間の39%がオペレーション業務に費やされており、顧客対応に十分な時間を割けていません。一方で、テクノロジー活用や専門家連携の高度化によってRMを支援している企業では、成果の向上が顕著に見られます。こうした効果的に連携されたRMチームを持つ企業では、HNWI の52%が他者への推奨意向を示しています。 

3. インテリジェンス基盤の確立 

拡張知能(Augmented Intelligence)は、これらの取り組みをスケーラブルに実現するための基盤となります。顧客データを商品や専門領域を横断して統合し、360度の顧客理解と予測インサイトを提供します。さらに、業務プロセスや連携の自動化により、拡充されたサービスやエコシステムを持続的な競争優位へと転換します。 

インテリジェンス起点のロードマップで変革を加速する 

ウェルスマネジメントは今、商品を軸とした販売から、パーソナライズと共感を重視したアドバイスへとシフトしています。成功の鍵は、顧客の資産規模だけでなく、ライフスタイルや将来の志向をどれだけ深く理解できるかにあります。この変化により、差別化された顧客体験と、金融リターンを超えた価値提供の重要性が一層高まっています。 

各社の成熟度が異なる中、まずは現状を正確に把握することが不可欠です。具体的には、「データの品質とアクセス性」「業務プロセスの分断」「意思決定におけるインテリジェンスの活用度」という3つの観点から評価する必要があります。 

現状を踏まえ、次に取るべきは、3つの時間軸に基づくロードマップに沿った優先順位付けです。 

  1. Now(現在) 
    適切なデータ基盤の整備と、AIを活用した生産性向上ツールの導入を通じて、インテリジェンスの基盤を確立する 
  1. Soon(短期) 
    オルタナティブ投資や専門性の高い付加価値サービスを拡充し、競争優位を確立する 
  1. Later(中長期) 
    自律的なポートフォリオ運用やAIを活用した資産承継・税務計画、さらに関係性の継続性を支えるインテリジェンスの定着により、高度な成熟段階を実現する 

また、各段階における進捗は、明確な指標によって測定する必要があります。これには、プラットフォーム統合、データ品質、RMの生産性といったオペレーション指標に加え、顧客満足度、ウォレットシェア、顧客維持率などの成果指標の両方が含まれます。 

パーソナライゼーションが不可欠となる中、インテリジェンスを組み込み、RMの役割を進化させた企業こそが、持続的な競争優位を確立していくでしょう。 

本レポートの見解は、キャップジェミニが蓄積してきた広範なリサーチに基づいています。なお、当社はSource Global Researchによる「2025年 Thought Leadership品質評価(2025 Quality Ratings of Thought Leadership)」において、世界トップ3にランクインしています。