行政機関への効率化に対する国民の要請は強まる一方、財政面でもより一層のプレッシャーを受けています。そして、テクノロジの活用で多くの成果を出せるようになることが、一つの大きな希望となっています。これは日本でも他国でも同じです。このような背景において、システムが複数のワークフローを自律的に、すなわち人が介在せずにエンドトゥエンドで実行できる、「エージェント型AI」への期待が高まっています。エージェント型AIは、行政の遂行能力を根本的に転換し、市民向けサービスの在り方を変革する可能性を秘めています。 

しかしながら、その実現には障壁があります。確実に実現するためには、戦略的かつエビデンスに基づいた適切な導入が不可欠なのです。エージェント型AIがどのようなワークフローで最大の価値を発揮できるのか、どのようなリスクが存在し管理するべきか、そして、全面的な導入の前に、どのような準備をして安全策を設けるべきか。こういった事項を明確に評価し計画に盛り込むことが必要です。 

本報告書1は、行政機関のエージェント型AI導入に向けた準備状況の評価を、フレームワークとして整理した初めての調査分析結果です。この体系的な枠組に基づき、世界各国の行政機関における共通的な業務または機能を評価しています。さらに実際のユースケースを踏まえた実践的な評価を行い、エージェント型AI推進を後押しするものとなっています。 

行政機関における準備状況の評価から始める 

複数の組織にまたがっており現在は分断されていて、かつ頻繁に繰り返されている処理が、行政機関に限らず大規模な組織には数多く存在します。このフレームワークは、こういったワークフローに着目して、行政機関内への導入と大規模な展開の優先順位付けを目的とした、新たな基盤となるものです。 

各処理はエージェント型AIの「導入可能性」と「実装の複雑さ」で評価され、準備状況を三段階でマッピングしています。 

高順位:早期導入に適しており、十分な対策が可能 

中順位:個別の支援、体制構築、詳細な分析を踏まえれば、導入が可能 

低順位:実態をモニタリングし、試験的かつ反復型の導入をするなど、長期的な導入が必要 

今回レビューした主要な行政処理は70にのぼり、その半数は、高順位、すなわち管理可能であり実装の複雑さを乗り越えることができると評価されています。もちろん、制度的な適合性や安全性への対策が必要となりますが、大規模導入や水平展開が可能であることもわかりました。一方、様々な意見もあります。キャップジェミニの調査では90%を計画的展開が可能である、としていますが、行政機関のプロジェクトについては、より悲観的な調査結果も存在します。 

そのため、より深い分析を行い成功のためのポイントを以下の通り明らかにしました。 

  1. 組織ではなく機能で考える:エージェント型AIは組織の壁を越えるワークフローにおいて、特に有益である。 
  1. 野心的取組と実現可能性のバランスを取る:より効果の高いエージェント型AIこそ、大規模なものとなるため、実装の複雑さなどリスクとのバランスを考慮するべき。 
  1. 最も確度の高い処理から始める:より複雑な処理に取り組む前に、確度の高い処理で能力と自信を高めることが重要。 
  1. ローカルの特性が成功を左右:今回のようなグローバルな評価はあくまでも基準値。ローカルに存在するインフラ、規制等の環境、文化的な常識が成否に大きく影響する。 
  1. 状況は刻一刻と変化する:評価結果は定期的に見直しが必要である。現時点で低評価だった処理も、明日には中または高評価となる場合がある。 

インサイトからアクションへ 

この報告書は、エージェント型AI導入を検討する行政機関のための実践的な意思決定支援フレームワークです。関連する処理を特定し、潜在的な公共価値や実践における障壁を踏まえ、取組の優先順位をつける体系的なアプローチを提供しています。 

したがって、意思決定者が、エージェント型AIが最も効果を発揮しそうな分野を見つけ出すために活用してください。これらのインサイトは、ガバナンス設計などの計画立案、リスク管理、試行(パイロット)、および大規模展開に関する意思決定に役立つことを目的としています。 

そして、アクションに移すためには、現在の組織環境への対応が不可欠です。それぞれの推進部門は、組織の優先順位、デジタル成熟度、規制等の環境などに合わせてフレームワークを調整することも忘れないでください。 

すべての行政機関が対処すべき5つの課題  

適切かつ確実な導入における課題は、単なる技術的なものではありません。以下に挙げる5つの課題は、市民と行政機関の双方において、信頼に関する現実的な影響を及ぼします。これらに積極的に対処することが、試行を踏まえて本格展開に繋げる上で極めて重要です。  

  • 持続可能性:エージェント系システムは大規模なエネルギーと冷却水を必要とする。エージェント型AIの導入価値が環境に及ぼす影響を考慮すること。省エネルギーな施設を利用すること。 
  • 職員の準備:自動化への過度な期待や新技術導入への抵抗は、現実的なリスクである。AIリテラシーやスキルの向上、チェンジマネジメントに投資し、組織全体の能力を高め職員の自信を醸成する必要がある。 
  • 価値観との整合性とバイアスへの注意:エージェント型AIは差別的な出力をおこなったり、プライバシーを侵害したりすることがある。倫理的影響の評価や偏向性(バイアス)の監視を継続的に行い、人間による検証を通じて悪影響を緩和する必要がある。  
  • インフラの強靭性:脆弱なインフラ、特にAPIの脆弱性は外部からの攻撃リスクを生み出す。強力な認証、エンドトゥエンドでの暗号化、運用セキュリティの強化が必要。  
  • 説明可能性と監査可能性:公的機関では特に重視される。意思決定の根拠をユーザー向けインターフェースに組み込んで、誰にでも説明可能な状態を実現すること。そして、すべてのエージェントの処理について、詳細な監査記録を保管すること。 

この報告書で解説するフレームワークはあくまでも出発点であり、戦略的取組を促進するためのツールです。政策立案者、行政機関そして関係業界が協力し、どこから始めるべきか、どのように対応能力を高めるべきか、そして最終的には、エージェント型AIの価値を測定可能な形で公共サービスに反映できる方法を明確にすることを目的としています。 

その確実な実現のためには、戦略的かつエビデンスに基づく導入が必要です。本報告書では、その評価軸を明確にしています。どの処理で最大の価値を提供できるか、どのようなリスクを管理すべきか、そして大規模展開前にどのような能力や安全策といった準備を行うべきか、といった評価に活用してください。 

キャップジェミニはエージェント型AI導入のための評価や、導入に向けた準備の支援をご提供しています。引き続き詳細な情報発信をして参ります。