「あなたの会社は、AIを単なる業務ツールとして扱っているだろうか。それともビジネス基盤として位置づけているだろうか。」  

今回のグローバル調査1が示したのは、AIがもはや単発のプロジェクトでも流行の技術でもなく、企業構造そのものを変える長期投資テーマになっているという現実です。短期の景気変動や「AIの冬の時代」に対する不安があっても、世界の企業は動きを止めていません。実際、53%の企業がAIを5年以上を見据えた投資対象として位置づけており、AI予算も2025年の3%から2026年には平均5%へ拡大する見込みです。企業は、データ基盤・人材・ガバナンスまでを一体で強化することで、仮にAIの冬の時代が来たとしても、基礎体力(データ、インフラ、スキル)を積み増す構えを見せています。  

投資の中心は、測れる領域です。営業・マーケティング、IT運用、サプライチェーンなど、プロセスが定義されKPIが明快な領域に予算が集まっています。生成AIはパイロットから本格運用へ舵を切り、フィジカルAIやエッジAIも追随しています。差別化に直結するところは作るが、加速が必要なところは買う、そして汎用モデルの上に自社の固有価値を編む——この混成戦略が現実解になっています。実際、「商用製品の購入」が約4割、「主に内製」が3割強という構成です。一方、日本の内製志向55%というのは調査国の中で最大です。  

また、2026年は基盤拡張の年として描かれています。データパイプライン、学習・推論の計算基盤、ガバナンスと安全性、そして人材の再教育に、多くの組織が予算を振り向ける計画です。単なる生産性向上に留まらず、売上成長、リスク・コンプライアンス強化、ナレッジ活用、顧客体験まで、価値の幅を広げる狙いが明確になっています。加えて、データ主権・AI主権という新しい論点が急浮上しており、機微データを外部モデルに載せる際もコントロールを失わない設計が、経営テーマに昇格しています。  

 もう一つの軸はHuman AI chemistry(人とAIの化学反応)です。 AIは探索・実行範囲を広げますが、人間が最終判断と責任を持ち、その前提で、役割分担、介入ポイント、監査可能性を明文化する組織が増えています。生産性や意思決定の質が改善したという報告は過半数に届く一方、信頼をどう設計するか(説明可能性、逸脱時のブレーキ、責任境界)は依然として勝敗を分けるトピックといえます。人間が形式的にループにいる状態を超え、人間がオーケストレーターになる状態へ、職務設計と権限設計の更新が必要です。  

では、日本企業にとって何が要点でしょうか。第一に、 AI活用は個別ユースケースの分散投資から、企業横断での運用能力構築へと重心を移しつつあります。KGI/KPIを案件別ROIだけでなく、収益成長・市場地位・レジリエンスで測る視座転換が必要です。第二に、投資配分の再設計です。今年はとくに(1)データ整備・ガバナンス、(2)推論を意識したインフラ、(3)業務ごとの役割分担ルール、(4)現場リスキリングの4点を並行で進めましょう。第三に、内製か外部調達かの判断基準を明確化することです。差別化に直結し機密性が高い業務は自社で作る、速度と規模が優位性を生む業務は外部基盤を買う、そしてプロンプトやエージェント設計、評価基準は自社で握る——この線引きを経営会議で決める必要があります。  

世界における日本の立ち位置は?  

主成分分析で各国の回答を整理してみたところ、1つ目の軸(横軸)はAgentic、Human–AI 協働、データ主権、GenAIスケールに関する質問が正の方向に強く効き、負の方向にはガバナンス、倫理、スキル、ROI/KPI、ユースケース管理といった質問が効いている軸が出てきました。それゆえ、右側をフロンティア志向、左側をAIガバナンス・制度志向と名付けます。2つ目の軸(縦軸)は上方向に短期回収投資/長期変革意識/現場エンパワー/MLのインパクト期待/データ主権、下方向にモデル開発/人材育成/S&M強化/計算基盤投資/データ基盤が強い軸、上方向をAI変革モメンタム、AI基盤志向と名付けました。その上で、各国をマッピングすると、下記図のようになりました。 

日本は「AIガバナンス・制度志向 × AI変革モメンタム」寄りです。 まず土台を固めているように見えます。AIガバナンスの枠組みを確立・更新する企業が87%、倫理・バイアス監査を定期運用する企業が89%に達し、ルールと監督を先に整えてからスケールに臨む姿勢が鮮明です。また、同時に人と知の基盤も推進しており、全社的リスキリングが88%、データを知識として回す取り組みが90%と、属人化を避けて成果を再現可能にする運営の型を作っています。その上で短期で弾みをつけるために、2–3年で回収する戦術投資が79%、低価値案件の停止・統合は74%と、薄く広くから絞って厚くへの転換が進んでいます。同時に長期的視点も持っており、短期の不確実性があってもAIの長期的変革を確信する企業が74%です。一方、ドライブの心臓部には既存の実効技術が据えられ、2026年に大きな影響を与えるのはMLと答える企業が93.6%と圧倒的でした。「制度で支え、短期で走り、長期で攻める」日本らしい進め方が調査結果にも表れています。  

米国はフロンティアを先に走らせています。Agentic AI の採用度/GenAIの実装段階/人×AIの役割定義/Human–AI 協働の成果/データ主権などで、米国はいずれも世界平均を上回ります。例えば、「Agentic AI 採用」20%(グローバル平均 12%)、「人×AIの役割明確化」56%(48%)、「Human–AI 協働で生産性・意思決定が改善」78%(66%)、「データ主権の重視」67%(54%)。自律・協働・主権を現場に組み込みながら前線を押し上げています。さらにAI変革モメンタムにおいても、短期回収で弾みをつける姿勢が鮮明であり、「2–3年で回収する戦術投資」75%(68%)、GenAIやエージェントを現場動線に沿って拡張する筋立てに見えます。フロンティア領域を迅速に実装することによって、短期で加速しつつ長期へ接続する、米国らしい推進様式です。  

中国の姿勢は、まず制度と統制を強くきかせてから、効率と成果で押し上げるというオペレーティングモデルとして現れています。制度側で寄与の大きい項目の多くが、中国では世界平均を上回っており、例えば「AIガバナンス枠組みの確立・更新」92%(グローバル平均76%)、「倫理・バイアス監査を定期運用」92%(81%)、「リスク管理とコンプライアンス」91%(81%)と、AIを走らせる前に、統制を強く敷く姿勢が際立っています。同時に、再現可能性と移管性を支える組織基盤にも中国は積極的で、「ユースケースの展開数(KPIとして管理)」79%(68%)、「ナレッジマネジメント/データ知識化」83%(77%)、さらに「ハイパースケーラーとの連携」90%(78%)がいずれもグローバルを上回っています。これは、成果を出すためのスケール設計を制度と同じくらい重視する特徴と言えます。  

「役割定義」が、エージェント時代の勝敗線になる  

上記のマッピングでは、期せずして日本、US、中国のポジショニングが特徴的に分かれました。さらに深堀し、日本とUS/中国というAI先進国を比較すると、二つの設問に大きな差がみられます。「主に内製でAI能力を構築」する質問に対するYes割合は日本55%に対して、US/中国は20%程度と圧倒的に日本の内製化志向が強いです。逆に「人とAIの役割を明確に定義」する質問に対しては日本は20%、US/中国は60%程度がYesと回答しています。内製は強いにもかかわらず、役割までは定義できておらず、この組み合わせは、AIエージェントの本番導入に影響があるかもしれません。  

日本の内製化は、技術ドリブンというより守りの制度設計の帰結とも考えられます。機微データの外部持ち出しへの慎重さ、コンプライアンス部門の強い影響力、緻密なアクセス権や監査要件が厳しい故、自前で囲う傾向があります。しかし、役割の線引きが曖昧だと、エージェントの権限・責任・介入トリガーを決め切れず、結果、PoCは進むが、運用で詰まる可能性があります。処方箋はシンプルですが、業務オーナーと業務責任線を明確に定め、さらに人/AIの判断および実行権限の境界をリスクベースアプローチにより、言語化することではないでしょうか。  

キャップジェミニにおいても、実際にAIエージェント活用のための業務の再設計や人/AIの役割定義について、クライアントとディスカッションする機会が多くなっています。私たちは、未来の競争力を左右するAI活用の「あるべき姿」をともに描き、エージェントを活用した最適なオペレーティングモデルへ再設計を支援しています。 

また、変革を実現するための人材育成・リスキリングを通じ、組織全体のAIケイパビリティ強化を後押しすることで、お客様がAIを中心とした次世代型組織へと転換できるよう、包括的な支援を提供しています。