クライアントの課題:Hydro Oneは、電力の安定供給という厳しい基準を満たしながら、電気料金の自社負担分を抑える必要があります。その一方で、エネルギー源の多様化、異常気象の頻発、セキュリティリスクの増大、そして顧客サービスへの期待の高まりなど、電力・ガス業界の運用はますます複雑化しています。
ソリューション:Hydro Oneは、ITインフラと業務プロセスを抜本的に見直すために、ITおよび業務プロセスの可視化、ITおよび運用コストの最適化、顧客サービスの向上、そして俊敏性と信頼性の強化といった4つの分野で変革を進めることを決断しました。
成果:
- VMwareベースのプラットフォームと、あらゆるデバイス・フォーマットに対応するツールを活用し、新しいデータセンターを「統合管理画面(SPOG :A Single Pane of Glass)」で一元管理。アプリケーションの構成や展開範囲の拡張も実現。
- 柔軟性とサポート性に優れたIT基盤により、運用コストの削減と、予測可能性・信頼性の向上を両立。
- 1,000台以上の仮想サーバーをVMware、Oracle、HPEの最新ハードウェア・ソフトウェアへ移行することで、レガシー資産を削減し、運用効率を大幅に改善。
- Intelプロセッサを基盤とした新しいインテリジェントなコンポーザブルインフラの導入により、物理・仮想のコンピュート、ストレージ、その他のリソースを柔軟に組み合わせ、あらゆるワークロードに対応可能な構成を実現。
Hydro Oneは、カナダのオンタリオ州における主要な電力の送配電事業者です。2020年には、送電および配電ネットワークへの投資として約19億カナダドルを投入しました。約8,700人の熟練した従業員が、トロントからハドソン湾に至るまで、約140万の住宅、企業、産業顧客に電力を供給しています。
市場環境の変化が変革を推進する
電力・ガス業界では、エネルギー源の多様化、異常気象の頻発、セキュリティリスクの高まり、そして顧客サービスに対する期待の上昇といった要因により、運用環境がかつてないスピードで複雑化しています。Hydro Oneは、こうした状況の中でも電力の安定供給という厳しい基準を満たしながら、電気料金の自社負担分を抑えるという重要な課題に取り組んでいます。
同社のデータセンターは日々の業務を支える中核的な基盤であり、その安定的な運用は事業継続の観点から極めて重要です。
Hydro Oneは、ビジネス目標の達成に向けて、最新のテクノロジー、ソフトウェアソリューション、そしてITプロセスの改善に積極的に投資しました。特に、仮想化や自動化といった技術を活用することで、柔軟性・拡張性・俊敏性を高めています。これにより、老朽化したIT資産にかかる継続的な運用コスト(OPEX)の課題に対応するとともに、将来的なIT刷新に備える体制を整えることができました。
IT変革を本格始動
Hydro Oneは、ITインフラと業務プロセスの抜本的な見直しに踏み切りました。経営陣は、次の4つの分野で成果を最大化することを目指しています:
- ITと業務プロセスの可視化:ITインフラ全体の状況を明確に把握し、そのパフォーマンスが業務に与える影響を可視化。
- ITおよび運用コストの最適化:運用コストを最小限に抑え、コスト削減効果を規制当局に対しても明確に示せる体制を構築。
- 顧客サービスの向上:社内外の顧客に対して、高品質かつコストパフォーマンスに優れたサービスを提供することを目指す。
- 俊敏性と信頼性の強化:将来的な成長を支える、柔軟で安定したITインフラの整備。
Hydro Oneは、長年の技術パートナーであるキャップジェミニおよびそのグループ企業Inergiと連携し、ITインフラをプライベートクラウドへ移行する大規模プロジェクトを実施しました。この複雑なプロジェクトでは、1,000台以上の仮想サーバーを新しいハードウェアおよびソフトウェア環境へ移行しました。また、SAP、iHUB、Tivoli、Itronといった4つの重要な業務アプリケーションのアップグレードにも取り組み、レガシー資産の削減と運用コストの最適化を実現しました。
移行作業にあたっては、VMware、Oracle、HPEを技術パートナーとして採用し、強力な支援を得ました。
Hydro Oneはキャップジェミニとの協力のもと、最新のソフトウェアとアプリケーションを活用し、IT資源を標準化・一元化するための戦略的なロードマップを策定しました。この取り組みの主な目的は、ITの需要に応じて柔軟に拡張・縮小できるハードウェア基盤を整備し、運用コストを削減することです。そのために、信頼性の高いベンダー認定のリファレンスアーキテクチャと、新しいコンポーザブル・インフラストラクチャを導入し、組織全体の運用効率を向上させました。
将来を見据えたSAPの再構築
SAPはHydro Oneのビジネス基盤の中核を担っており、人事、サプライチェーン、カスタマーサービス、財務など、すべての主要業務プロセスを支えています。Hydro Oneでは、全社的に23のSAPコンポーネントを活用しています。従来のSAP環境は安定しており、一定のパフォーマンスを発揮していましたが、老朽化により柔軟性や可視性に欠け、運用コストの増加やインフラのサポート終了といった課題を抱えていました。さらに、データ量の爆発的な増加により、既存環境は容量の限界に近づき、パフォーマンスの低下や新規プロジェクト環境の立ち上げの難しさが顕在化していました。 こうした複雑性とデータ量の増大に対応するため、SAPを新たなインフラへ移行することが最適な選択肢となりました。新しいプラットフォームは、HPEの革新的なコンポーザブル・インフラストラクチャ技術と、Intelの最新スケーラブル・プロセッサを基盤としており、将来的な成長と拡張性を確保しています。
SAPの仮想化基盤を提供するVMwareは、変革を進める上で必要な柔軟性と管理機能を提供しました。当初は導入チームが一箇所に集まり作業を行う予定でしたが、パンデミックの影響により計画は変更を余儀なくされました。しかし、キャップジェミニのグローバルチームとトロントのローカルチームは、完全リモートでの作業にもかかわらず、Hydro Oneの従業員に一切の支障を与えることなく、複雑な移行を成功させました。SAPを新しい仮想化ハードウェア(Linuxベースの標準化された環境)に移行した後、50以上の外部システムとの接続も再構築されました。その結果、システムの可用性とパフォーマンスが大幅に向上しました。
Hydro Oneは新しいプラットフォームを導入し、インフラを自動化に対応できる状態に整えました。これにより、最新技術を活用して技術チームの負担を軽減しています。現在は、VMwareのサポートとツールを使い、すべてのデバイスや形式に対応した「統合管理画面(SPOG :A Single Pane of Glass)」から、新しいデータセンターをまとめて監視・管理できるようになっています。この仕組みにより、新しいアプリケーション構成の導入や、より広い範囲への展開が可能になりました。
Hydro Oneは、柔軟性が高く、コスト効率にも優れた仮想化環境へとシステムを移行しました。これにより、将来的なパブリッククラウドへの移行に向けた確かな基盤が整いました。
クラウド環境への移行に備える
Hydro Oneは、柔軟性が高く、コスト効率にも優れた仮想化環境へとシステムを移行しました。これにより、将来的なパブリッククラウドへの移行に向けた確かな基盤が整いました。本格的なクラウド移行を前にしても、すでに多くのメリットが現れています。財務、人事、サプライチェーン管理、フィールドサービス、カスタマーサービスといった企業の中核業務が、すでに仮想環境上で稼働しており、より高い柔軟性と効率性を実現しています。
プライベートクラウドへの移行により、運用コストの大幅な削減が実現しました。Hydro Oneは、ビジネス全体を俯瞰できる一元管理の実現により、IT環境の運用負荷が軽減され、サポートコストの削減が見込めることを根拠にビジネスケースを構築しました。また、新たな技術—たとえば自動化—を既存環境に影響を与えることなく柔軟に導入できるIT基盤が整備されています。
さらに、Hydro Oneとキャップジェミニのチームは、2020年8月に新しいITインフラへの移行を成功裏に完了しました。チームメンバーは世界各地に分散しており、当初は一箇所に集まって作業を行う予定でしたが、今回もまた、パンデミックによる制限により、全員が在宅勤務で対応することになりました。それにもかかわらず、移行作業はわずか1回のロングウィークエンドで完了し、ビジネス継続性も確保されました。
この成功は、テクノロジーだけでなく、キャップジェミニによる組織変革マネジメント(OCM)の導入によって実現されたものです。技術と組織の両面からアプローチした包括的なソリューションにより、以下の成果が得られました:
- インテリジェントなコンポーザブル・インフラストラクチャの導入により、物理・仮想のコンピュート、ストレージ、リソースを柔軟に組み合わせ、あらゆるワークロードに対応可能な構成を実現
- システムの信頼性が高まったことで、顧客への影響が最小化
- レガシーシステムの廃止と運用コストの削減により、より安定したIT予算管理が可能に
今回のITトランスフォーメーションにより、Hydro Oneは柔軟性が高く、最新かつサポートしやすいIT環境を構築し、サポートコストの削減と運用の予測可能性の向上を実現しました。従来のモノリシック(単一構造)なモデルから脱却し、標準化され、スケーラブルなインフラを整備したことで、将来的にクラウドへ移行する際にも、既存の環境を再利用して他のアプリケーションを稼働させることが可能になります。この強固なテクノロジー基盤により、Hydro Oneは垂直方向(機能の拡張)にも水平方向(事業の拡大)にも柔軟に成長できる体制を手に入れました。