AI agent – 期待からインパクトへ
AIエージェントとは、あることを完全に自動でこなす人工知能です。エージェンティクAIは複雑な目的をよりシンプルなタスクに分解し、そのタスクに最適なエージェントを連携・調整し、すべてのタスクの実行まで行動する人工知能システムを指します。従来型AIがあらかじめ定められたルールに従って動作するものでしたが、生成AIが膨大な学習データに基づいて新たなコンテンツを生成するのに対し、エージェンティックAIは生成能力に加え、自律的な意思決定とワークフローのオーケストレーション(段取り)を組み合わせています。まるで各分野に特化したデジタル従業員がチームを組み、複雑なビジネス課題を協働して解決するようなイメージです。
生成AIは、人間のような言語を解釈し生成する点で優れていますが、プロンプトに応じて反応するものの、自ら複数の工程を伴うタスクを独立して実行したり、外部システムと連携したりすることはできません。エージェンティックAIは、その次の進化形です。受動的なツールから、目的志向型の能動的なコラボレーターへと進化します。
業界を問わず、多くの企業がエージェンティックAIの導入や実証実験をさまざまな領域で進めています。当社では、世界的な大手銀行様をクライアントとし、不正検知およびコンプライアンス対応にエージェンティックAIを活用しています。疑わしい取引の調査や是正措置を最小限の人手で自動化することが可能となっています。また、グローバルな大手保険会社では、テストケース管理や品質保証といった非常に手作業の多いプロセスの自動化にエージェンティックAIを活用し、従来は数百人規模で対応していた業務フローの変革として大幅経費削減を目指しています。
さらに、マルチエージェントシステムは、デジタルマーケティング、コンタクトセンターの変革、アナリティクスなど、銀行から公共サービスまで幅広い分野で試験導入が進められており、グローバル消費財企業、金融機関、政府機関など多様な事例が生まれています。
多くの企業がAIのPOC(実証実験)段階から本格導入へ移行する際に、同じような課題に直面しているのも事実です。数十年前から続けて使用されている古きシステム、いわゆる、レガシーシステムは、エージェントのシームレスな統合に必要なAPIやデータ構造を備えていないことが多く、それらの先にモダナイズ(近代化)が不可欠となります。また、エージェントの自律性と人による監督のバランスを適切に取ることも重要です。自律性が低すぎればインパクトが限定され、高すぎればリスクが増大します。さらに、マルチエージェントシステムの設計・導入・運用に精通した専門人材が不足しており、ベンダー依存や導入の遅れにつながっています。
現代社会の面白いところですが、AIは人間と同じ精度基準で評価されていないのが現状です。人間が間違えた場合、誰がどこで間違えたかを逆算することは可能です。一方、AIが誤作動した場合、その発生要因や責任の所在を追跡・特定するのは困難です。AIエージェントがより多くの責任を担うようになるにつれ、個人情報の保護を初め、AIの回答に透明性、公平性、コンプライアンスの確保が不可欠となります。完全に自律的なエージェントに対する信頼性は依然として課題であり、説明可能性や倫理的な利用に関する懸念が根強く残っています。当社の研究機関の調査によれば、2025年第2期末時点では、AIエージェントを大規模に導入している企業は世界中でごく一部にとどまり、多くの企業が前述の課題によりパイロットやPoCの段階で足踏みしているのが現状です。
私が日頃お話しする多くのクライアントやチーフ・データ・オフィサー(CDO)の方々も、同様の課題に直面しています。しばしば全体的な構造や戦略、明確なROI測定法がないまま、数多くのPoCを個別に構築されています。グローバルに事業を展開するクライアントにとっては、データ主権や情報セキュリティが重大な障壁となっています。また、優秀な人材不足も深刻であり、たとえば社内チームと外部コンサルタントの連携は容易ではありません。さらに、どのタスクをAIエージェントに任せ、どの部分を人間による監督下で行うべきかの線引きも依然として大きな課題となっています。
これらの課題に対する魔法の矢のような容易な解決策は存在しませんが、ベストプラクティスは徐々に確立されつつあります。AIをスケールさせるためには、従来のような順次的なアプローチを避け、並行して推進することが重要です。エージェンティックなワークフローを支える堅牢かつスケーラブルなインフラとデータ品質への投資は、最優先事項となります。外部コンサルタント、特にオフショアチームを活用することで、スキルやキャパシティの拡張を迅速に実現できます。
また、エージェントの役割や誤って作動した場合のエスカレーションパス、コンプライアンスチェックを明確に定義したガバナンスフレームワークの導入も不可欠です。
キャップジェミニでは、生成AIおよびエージェンティックAIをあらゆるデリバリー領域に組み込んだ幅広いアクセラレーターを開発しており、これによりコスト効率の向上とクライアントへの価値提供までの時間短縮を実現しています。
私は戦略コンサルティングの出身であるため、すべての戦略フレームワークには価値があるものの、クライアントによって最適なフレームワークは異なると自信をもって申し上げられます。したがって、まずは自社の「AIレディネス」を客観的に評価することが重要です。私たちは、迅速な成果(クイックウィン)を実現できる重点領域の特定をご支援します。クイックウィンや明確な価値提案、投資対効果(ROI)の見通しがなければ、AI投資に踏み切るのは難しいでしょう。
AIエージェントは従業員と同様に捉えるべきです。まず「採用ポジション(=明確な課題設定)」を用意し、候補者(=複数のAIエージェント)を迅速に試行し、最も適した人物(=AIエージェント)を採用するというアプローチが有効です。ゼロから作るのは選択肢としてあるものの、当社の「Agent Gallery」には既に800以上のエージェントを集結していますので、たくさんのAIエージェント候補者の試行は可能です。
エージェンティックAIは、期待から現実のインパクトへと急速に進化しています。AIエージェントを従業員と同様に、役割を定義し、実験し、最適な人材を採用するという視点で活用することで、組織は新たな効率性とイノベーションを実現できます。この道のりには、構造・戦略・そして成功と失敗の両方から学ぶ姿勢が求められます。適切なアプローチを取ることで、エージェンティックAIは測定可能な価値と持続的な競争優位をもたらします。
